プログラム
期日: 2011年11月26日(土)、11月27日(日)
会場: 大阪大学豊中キャンパス(大阪府豊中市)
会場: 大阪大学豊中キャンパス(大阪府豊中市)
- 予稿集 2,000 円
- 大会中、保育室を設置します。
11月26日(土)
- 口頭発表(13:00〜18:00)
- 懇親会(18:10〜20:00)
11月27日(日)
- ワークショップ(10:00〜11:40)
- ポスター発表(12:00~13:00)
- 挨拶,日本言語学会論文賞授賞式(13:15~13:30)
- 公開シンポジウム(13:30~15:55)
公開シンポジウムの概要
活用論の前線
■司会・総括 仁田 義雄(大阪大学)
■三原 健一(大阪大学)「活用形から見る日本語の条件節」
■野田 尚史(大阪府立大学)「語の活用論から述語の構造論へ―日本語を例とした拡大活用論の提案―」
■田川 拓海(千葉大学非常勤)「分散形態論を用いた動詞活用の研究に向けて」
このシンポジウムの目指すもの
司会・総括: 仁田義雄(大阪大学)
学校文法での活用論を中心とした伝統的な日本語研究での活用論が現実の現代日本語の言語現象を捉えていない、ということが認識されてから既に久しい。ただ、管見の限りではあるが、日本語研究の世界では一部を除いて、それを克服しようとする本格的な研究は、まだあまり見られない。「活用論の前線」と題した本シンポジウムでは、各発表者が自らの問題意識・方法論に基づいた個別分析例、自らが考える活用の概要、ある特定の理論によるケースタディなどを展開していく。そのことを通して、理論的な研究と伝統的なあるいは記述的な日本語の活用研究との橋渡し・交流を行い、日本語を対象にした活用研究の活性化の契機を作り出せればと思う。活用形から見る日本語の条件節
三原健一(大阪大学)
本発表では、生成文法理論に基づく立場から日本語動詞の活用形を捉えそして位置づけ、その統語論的考察を行う。条件形「れば」「たら」「と」「なら」を特に取り上げ、地図製作計画(Cartography Project)による句構造に準拠しながら、句構造の中で活用形を認可するという枠組みでの分析を提示する。また、否定辞と「だけ」の作用域への考察を行い、「れば」「たら」節がvPの節サイズ(否定形はNegPの節サイズ)、「と」節がTPの節サイズ、「なら」節がForcePの節サイズを取ることを論じる。活用形と(従属)節の階層性、(従属)節に入りうる文法カテゴリ・成分の種類など、日本語学にもなじみ深い問題を新しい視点から追及し、活用研究と文の構造研究の相互連関をも指摘することになる。語の活用論から述語の構造論へ―日本語を例とした拡大活用論の提案―
野田尚史(大阪府立大学)
本発表では、〈拡大活用論〉という名づけのもと、旧来の動詞という語の活用体系だけではなく、述語の構造を分析・記述できる形態変化系列を捉えられる枠組みを提案する。ヴォイスやアスペクトやテンス・ていねいさ・ムードなどの文法カテゴリによる形態変化を〈内の活用〉と呼び、どのような節の述語になるかによる形態変化を〈外の活用〉と名づけ、区別しながら分析・記述する。そのことによって、ヨーロッパ系言語を始めさまざまな言語と日本語の「活用」との統一的な分析・記述が出来るようになり、形態論としての活用論から文法論としての活用論への転換できることを示す。本発表でも、三原講師の発表と相似する観点から、節が含みうる文法カテゴリなどへの考察を通して、活用形と文構造の連関が捉えられることを述べたい。分散形態論を用いた動詞活用の研究に向けて
田川拓海(千葉大学非常勤)
本発表では、生成文法理論のモデルの一つである分散形態論(Distributed Morphology)を用いて、日本語動詞の活用の研究に対して発言・貢献を試みる。それは、また、理論的研究からの伝統的な日本語の活用研究への1つの新しいアプローチの提案でもある。まず、分散形態論の具体的な研究方針を述べ、その方法での分析・記述を示す1つのケーススタディとして、連用形(i形)を取り上げる。連用形を取り上げるのは、連用形(ないしはそれと同等の形態)が多様な文法環境で使われ、多様な分布を持ちうるからである。多様な分布を持つ連用形を取り上げ、それに対して説明を施すことによって、分散形態論が形態と文法環境の非一対一対応を過不足なく捉えうるモデルであること、そして、当該理論の活用形研究への有効性を示す。総括
仁田義雄
活用形研究進展のためには、まずもって活用する語(活用語)の形態変化・語形変化をどのように捉え(助辞・接辞などの付加された形式への位置づけ)、どのように体系化(整理)するかの姿勢が問われよう。その前段階として語をどのように捉え位置づけるかが重要になってくる(いわゆる助動詞などの位置づけ方)。日本語においては、さまざまな節は、助辞の付加をも含め、述語に来る活用語の形態変化によって表される。また、述語が帯びうる文法カテゴリは、節のタイプによって決まっている。文法カテゴリは、接辞や語尾や形式語で表される。日本語は、膠着性の高い言語で、それらの形式が順次線条的に現れる。さらにそれらの形式の有する作用域の大小は、「受け+まし+た」などを除き、基本的にそれら形式の線条的順序性に対応する。その意味で、Item and Process(IP)方式はではなく(「受け+た+でしょう」は例外的)、Item and Arrangement(IA)方式での記述がなじむ言語である。ゼロ形態の付加を重ねる、という方法がないわけではないが、ただ、無標形式の文法的意味を十全に捉えることを考えれば、Word and Paradigm(WP)方式.語形系列表式-の方が有効的だろう。たとえば「受け+た」は、「タ」のみの付加に拘わらず、過去だけではなく、肯定や普通(非丁寧)などを表している(さらにアスペクトやヴォイスも)。
文法カテゴリを表す形式は、それを付加された述語が現れる節のタイプに応じて、さらに自らの形態を変化させる。いわゆる活用する。語形変化全体ではなく、活用の基本は、統合的な機能を表し分けるための形態変化であろう。ただ、「走り+ながら」のようなものについては、助辞の付加された形式であることに対する位置づけ方もあるが、派生(副詞化)か、ある統合的な機能を担う形態作り(屈折)かで、意見の分かれることもあろう。連用形は、同じ形態が語形成(派生)の基本になる語基である、という捉え方もできる。また、屈折と派生の相互関連の問題は、広い意味での活用形の中にも存在する。
活用語の活用形は、基本的に節の述語になるための変化形である。その点で、節の中核である述語がその節を構成するために取る、文の成分・述語の取りうる文法カテゴリの問題に直結し、節の意味-統語構造のあり方に関係する。その意味で、活用を問うことは、節の意味-統語構造を問い、節の包み包み込まれという連なりからなる、文の意味-統語構造を問うことでもある。