聖書ヘブライ語の動詞組織における Biradicalism
高橋 洋成 (筑波大学大学院)
本発表では,特に「窪み動詞」「重ね動詞」を取り上げ,これらを「規則的な」3 語根素体系(Triradicalism)と比べつつ,語形成の仕組みを検討した。このとき,聖書ヘブライ語の語形成を従来のように語根に対する操作としてではなく,語内において各要素を配置するプロセスとして捉え,モデルとして自律分節形態論を採用した。その結果,これら 2 語根素動詞は派生・屈折の両面において,重音節の後接による延長語幹を構成することが分かった。この重音節付加は 3 語根素動詞のものとは反対の方向に向かっており,別種の 2 語根素体系(Biradicalism)に属するものと言って良い。つまり,聖書ヘブライ語の動詞組織には 2 つの異なる規則体系が並存していると考えられる。2 語根素動詞の形態の多様性が,2 語根素体系と 3 語根素体系の規則の間で揺れ動く語形成プロセスを反映している。