「アスペクト」から「ヴォイス」へ -ドイツ語接頭辞の機能変化-
黒田 享 (筑波大学)
本発表では、ドイツ語において接頭辞により動詞が派生される際に見られることがある、新たな対格目的語の動詞項構造への導入をドイツ語史の視点から論じた。
まず、テキストデータベースを用いてbe-、er-、ver-、zer-による動詞派生について調査した結果、ドイツ語の歴史において、これらの接頭辞による動詞派生の際に新たな対格目的語が導入されるケースが増加してきていることが確認できることを示した。これは特に、自動詞からの派生において顕著である。
そして、古高ドイツ語期には純粋なアスペクトマーカーとして機能していた接頭辞gi-がその後のドイツ語の発展の過程で消失したことも考慮し、ドイツ語の接頭辞体系全体として、機能上の担当領域がアスペクトからヴォイスに移っていく傾向があったという考え方を提案した。