比較接頭辞 out- の意味論と尺度表現の存在論
蔵藤 健雄 (琉球大学)
本発表では英語の比較接頭辞 out- に適切な意味論を与え, (1b)と(1c)の違いを説明するために,スケール上の「程度(extent)」と「差(difference)」は,同じ型(type)であるが,存在論的に異なる類(sort)であり,両者は比較できないと主張する.
(1) a. Mary outran John.
b. *Mary outran John fast.
c. Mary outran John faster than Sue did.
副詞の原級を含むMary ran fast.のような文は「Maryは文脈で与えられた基準値以上の速さで走った」と解釈される.この場合,「文脈で与えられた基準値」とは速度のスケール上の程度であり,原級によって導入される.一方(1c)では,「Maryの速さとJohnの速さの差」と「Sueの速さとJohnの速さの差」が比べられている.しかし,(1b)では2つの速さの差と程度を表す文脈基準値が比較されているが,それぞれ類が異なるので非文となる.