日本語の主語は動詞句の内部に留まる場合がある:
行動実験からの証拠
小泉政利(東北大学)
玉岡賀津雄(広島大学)
玉岡賀津雄(広島大学)
日本語の「目的語・主語・動詞」語順(OSV語順)の文における統語構造上の主語の位置について、2つの対抗仮説が存在する。一つは、OSV語順の場合もSOV語順の場合と同様に主語がTP領域に移動しており、目的語はさらにその左側に移動している、とする分析である(仮説1)。もう一つは、OSV語順では主語が動詞句内部に留まっており、目的語のみが動詞句外に移動している、とする分析である(仮説2)。この2つの仮説の妥当性を検証するために、動詞句副詞を3つの異なる位置に含む刺激文(例:[AOSV] ゆっくり新聞を太郎が読んだ。[OASV] 新聞をゆっくり太郎が読んだ。[OSAV] 新聞を太郎がゆっくり読んだ。)を用いて、文正誤判断実験を行った。その結果、語順による反応時間の関係が [AOSV>OASV=OSAV] となり、仮説2が支持された。これによって、「日本語の主語は動詞句の内部に留まる場合がある」ことが心理言語学の観点から実証されたといえる。