もう一つの日本語存在文
西川 賢哉(慶應義塾大学大学院)
本発表では,
(1) a. ジョンの尊敬する学者に日本人がいる.
b. 洋子の好物に辛いものがある.
のような,場所表現を伴わないタイプの存在文を取り上げ,先行研究(西山2003,2004)で提案されている「絶対存在文」「リスト存在文」「帰属存在文」との比較を行なった. (i) 絶対存在文とは異なり,「[ガ格名詞句]がそもそも存在するか否か」を述べる文脈では(1)を使用できないこと;(ii) リスト存在文と密接な関係があるとされる指定コピュラ文を(1)から構築できないこと;(iii) 帰属存在文では可能な,ニ格名詞句の疑問詞化,ニ格名詞句を主名詞とする連体修飾化,といった文法的操作が(1)では不可能なこと,などから,(1)がこれらのタイプの存在文には合致しない,新しいタイプの存在文であると主張した.さらに,上に挙げた現象を踏まえ,(1)のタイプの存在文の意味構造を提示した.