ハンガリー語の副詞的分詞の表現における意味的制約
江口 清子(神戸大学大学院 文化学研究科)
ハンガリー語には、動詞語幹に接尾辞 '-vA' が付加された副詞的分詞 (adverbial participle) と呼ばれる形態が存在する。この副詞的分詞は、他の動詞あるいは述部と共起する際、副詞的分詞で表現される事態が、動詞で表現される事態に先行する(継起的)関係にあるものと、通常はそれらが同時発生の(非継起的)関係にあると解釈されるものとがあるが、この違いは副詞的分詞形で表わされる動詞が不完了であれば非継起的解釈となる、といったように、動詞が語彙的にもつアスペクトに起因すると考えられる。しかし、副詞的分詞形で表わされる動詞が不完了であれば常に非継起的な関係にあると解釈されるわけではない。
そこで本発表では、ハンガリー語動詞の時間的特性について従来より詳細な分析を試みる。その上で、副詞的分詞の表現に見られる多義性は動詞の語彙的な時間特性によるものであることを示し、'-vA' 自体には動詞のアスペクトを変更する機能はなく、単に後続要素と結びつける機能しかないことを明らかにする。またその結びつきの可能性には、副詞的分詞だけではなく、結びつく動詞の語彙的特性が深く関与することを示す。