ハムニガン・モンゴル語とハムニガン・エヴェンキ語の所有構造に見られる言語接触の影響
山越 康裕(日本学術振興会/北海道大学)
本発表では,ハムニガン・モンゴル語(KhM.)とハムニガン・エヴェンキ語(KhE.)における所有構造について,近隣のツングース諸語,モンゴル諸語と比較対照しつつ分析し,モンゴル諸語との接触による影響がKhE. に,ツングース諸語との接触による影響がKhM. にそれぞれ見られることを指摘する.
所有者と被所有者からなる名詞句[所有者#被所有者]において,KhE. は所有者の属格標示,譲渡可能接辞の消失,所有人称標識の随意化という点でエヴェンキ語などのツングース諸語と異なる.こうした特徴はモンゴル諸語の影響による属格の発達が引き起こしたと考えられる.またKhM. では,同様の名詞句において,所有者,被所有者ともに有標となる二重標示型の発達,所有人称標識の有無による譲渡可能性標示という点で他のモンゴル諸語と異なる.このことは譲渡可能性の区別をおこなうツングース諸語の影響によるものと推測される.