イタリア語における再帰非人称構文の統語構造
藤田 健 (北海道大学)
動詞が常に3人称単数形で標示されるイタリア語の再帰非人称構文(SI構文)は,従来再帰動詞が用いられる他の構文との関連で議論されることが多かったが,語順や動詞の過去分詞の一致現象,代名詞クリティックの生起等の統語現象を観察すると,他の再帰動詞文と統語的に明確に区別されねばならないことが分かる。本発表では,1) 非人称再帰代名詞は主格素性及び男性複数のφ素性をもち,項としてA位置に併合される,2) SI構文において虚辞のproがTP指定部に併合される,3) イタリア語においてTはEPP素性・主格素性の他に,人称に関わる解釈不能のφ素性ももつ,4) 非人称再帰代名詞の主格素性は強い素性であるので,移動によって照合されねばならない,5) 非対格動詞の過去分詞(軽動詞v)は形容詞的性質をもち,解釈不能の性・数のφ素性をもつ,という仮説によって当該構文を特徴付けることにより,関与する統語現象が簡潔に説明されることを主張する。