日本語における「顕在的」長距離繰上げ
水口 学
本発表では,「顕在的」長距離繰上げが日本語にも見られることを主張し,日本語の長距離かき混ぜが顕在的な長距離繰上げとして分析されることを指摘する。かき混ぜが外側のTP指定辞への「擬似繰上げ」であることを前提として明らかにした上で,長距離かき混ぜは中間のTP指定辞を連続循環的に移動する派生を経ることを議論する。TP指定辞を経由し,介在する主語を中間移動により回避する派生はモロッコ・アラビア語等に観察される長距離繰上げの派生と同じであり,顕在的な長距離繰上げが日本語に見られることを主張する。この提案の妥当性は長距離かき混ぜが焦点素性のような素性によって駆動される演算子移動ではないという日本語内外の証拠により裏付けられることを示す。本発表の提案は3つの理論的帰結を導くことになり,長距離かき混ぜの分析が最近の極小主義プログラムに基づく普遍文法研究に重要な示唆をもたらすことを,その具体的方向性と共に論じる。