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古代日本語の形態・統語論的変化
―名詞化活用形の変遷とその統語的帰結―

企画・司会:ジョン・ホイットマン

従来,日本語の活用形の通時的研究は音韻・形態論的側面に重点が置かれていた。本ワークショップでは,日本語史における活用形の変遷と文法機能の関係を検討する。特に,活用形と格システムの関係,活用形と名詞化機能の関係に焦点を当て,3つの課題を取り上げる。(1)連用形は名詞化節から動詞句(VP)レベルへの再分析と捉えて,類型論的観点から終止・連用形の歴史的再建を試みる。(2)近世語以前の連体形の共時的分析と中世・近世以後における終止形と連体形の合流について検討する。(3)上代語の連体形及び已然形を文(TP)レベルの名詞化と捉え,その歴史的再建を試みる。

連用形・終止形とその統語論的再建

柳田 優子

本発表では,上代日本語における連体形などの名詞化節は活格型システムをとるというYanagida and Whitman(2009)の仮説を前提に,連用形と終止形に焦点を当てその歴史的再建を試みる。連体形はさまざまな点から名詞の特性があることがよく知られているが,連用形語尾の原形*-iもまた名詞化接辞であるという説がある。連用形動詞に明示的に現れる項は非対格自動詞主語(S)と目的語(O)だけである。Gildea(1998)はカリブ諸語の異なる格システムはすべて名詞化に起源があり,「S/O絶対格型VP」を取る言語では動詞句は主語AをS項としてコピュラが選択するいわゆる述部名詞に起源があると主張する。本発表ではこうした類型学的観点から終止形動詞は連用形をその原形名詞化としてコピュラが選択する[S (copula) [NP OV]]に起源があり,単文への再分析は「簡素化」によると提案する。

節の名詞化としての連体形
―共時的及び通時的分析―

西山 國雄

名詞化辞の「の」とその前身としての連体形終止の研究が近年盛んに行われているが,本発表では連体形そのものを名詞化された節と分析し,それが統語的環境により三種類の歴史的変化をとげたと主張する。古語連体形の統語構造としては,Dが直接TPを取る名詞化節DPと仮定し,その主要部に連体形語尾の-ruを置く。現代語で「のだ構文」に相当する連体形では,[D ru ] > [C ru ] > [C no ]という再分析が起きた。関係節では,[D ru ] > [D φ ]という音形脱落が起きた。そして単純な主節(TP)では,[D ru ] > φという枝切り取り(pruning)が起きた。古語連体形の「する」は/su-u-ru/が基底で,語根末の母音は削除される。一方,現代語終止/連体形の「する」は/su-u-φ/が基底で,子音(r)が挿入される。φは音形脱落あるいは枝切り取りの結果である。

日本祖語の名詞化形と連体形及び已然形の再建

ジョン・ホイットマン

上代日本語における連体形,已然形,未然形の仮定節といわゆる-アク用法は所有格の主語を許容するという共通点を持っている。本発表では,これらを「高層名詞化形」と分析し,その原形を*-aと*-orに再建する。四段動詞未然形の仮定条件節/V-a-ba/に現れる/a/は名詞化語尾と見なす説がある(板倉1967)。残る3つの名詞化形はすべて連体形語尾の原形から発達したという仮説を立てる。-アク用法と二段動詞の已然形語尾/-ure/が連体形から派生されたことはすでに大野晋の研究で指摘されている。本研究では四段活用の已然形語尾/-e/も連体形と同じ名詞化語尾から派生されたと見て,*-orと再建する。子音の前で,*V-orの*rが脱落して,上代語中央方言の連体形V-u及び東国方言の連体形V-woになる。句境では,*rが口蓋化され,*or > *oj > e と四段動詞の已然形に変化したと主張する。

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