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日本言語学会第137回大会(2008)公開シンポジウム

「言語変化のモデル」イントロダクションと発題要旨
講師:上原 聡 (東北大学),真田 治子 (埼玉学園大学),
橋本 敬 (北陸先端科学技術大学院大学)
コメンテーター:ナロック ハイコ (東北大学)
司会:時本真吾 (目白大学)

頻度が形作る活用形態の(不)規則性―用法基盤モデルの観点から―

上原 聡 (東北大学)

認知言語学的なアプローチの考え方の1つとして,用法基盤モデルと呼ばれるものがある。これは,形態論で言えば,語の形態が意味機能の動機づけによる言語使用の実際によって形作られる/形成されるということである。このことは,本シンポジウムの「言語変化」というテーマで考えると,形態の変化が起きるとき,それは全く無秩序に起きるのではなく,言語使用上の何らかの要因によって一定の方向に向かって起きているということである。

本発表では,活用形態の規則性/不規則性という日本語にも見られる言語現象を取り上げ,不規則形から規則形への,またその逆の形態変化が,その語形の使用頻度に基づくことを指摘する。具体的には,多言語の類型論的な研究をもとに形態変化の原理を明らかにしたBybee 1987やLangacker 1987等を紹介し,それらの原理をもとに,国語学などでも取り上げられて来た,日本語の動詞活用形態の変化に関して,認知形態論の観点からの分析・説明を行う。

言語変化のS字カーブの計量的研究―解析手法と分析事例の比較―

真田 治子 (埼玉学園大学)

言語変化の伝播の比率は一般に,時間の経過に従って「遅→速→速→遅」というS字カーブの過程をたどるとされる。本発表では,カナダ英語の語形交替,鶴岡市の共通語化の過程,明治期学術漢語の現代日本語への浸透などの事例を,ロジスティック曲線とよばれるS字カーブにあてはめることで過去の変化の軌跡の分析と今後の変動の予測に役立てる手法を紹介する。また,言語学ではまだ非常に先行研究の少ない,複数の要因を複合的に投入してS字カーブの分析を行う多変量ロジスティック回帰分析を言語学のデータに適用する手法についても解説と比較・検討を行う。実際にこの手法を用いた鶴岡市の共通語化の過程の研究では,経年調査で得られた被調査者の世代,調査年など複数の要因を統合的に分析し,従来は認識されなかった要因間の影響関係や,S字カーブの一部とは見えなかった共通語化の飽和の動向がとらえられるようになった。またS字カーブのデータへの適合度も高いため,これを予測に使うことで今後の経年調査の必要性をより客観的に測ることができるようになった。

文法化を起こす認知能力・バイアスの検討―構成的手法によるモデル化―

橋本 敬 (北陸先端科学技術大学院大学)

言語変化の一種に,内容語が文法的機能を帯びるように意味変化する文法化という現象がある。その特徴は変化の一方向性,および,変化の型の普遍性であり,それは,人間の認知構造の反映と解釈可能である。われわれは,言語学習過程に着目した抽象的認知モデルの構築とシミュレーションによる解析を通じて,文法化,とくに一方向的意味変化が生じるメカニズムを検討した。その結果,意味変化が起きるためには,獲得した言語的ルールをほかの言語知識に拡大適用できる「言語的類推能力」が重要であることが示唆された。さらに,一方向性を持った変化を実現するには,ある形式を関連する別の意味を表すことに流用する「語用論的拡張」,および,特定の意味の共起性・関連性を認識しやすい「共起」という認知バイアスが有効であることを示す。これらの能力・バイアスと,メタファー的・メトニミー的推論能力との関係を議論し,一方向的意味変化と認知の関係を検討する。

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