シベ語の語り(narrative)における補助動詞biの機能と視点
児倉 徳和
シベ語の補助動詞bi(ある・いる)を伴う述語形式は,話し手が間接的に得た情報(証拠性における間接経験)を表す。この補助動詞biは,物語を語る際に多用されるという特徴を持つが,このような現象は証拠性の文法的対立を持つ言語によく見られるものであり,しばしば語り手の視点と談話中の登場人物の視点の使い分けの観点から説明される。このような分析はシベ語の物語の分析にも適用が可能であるが,本発表では,この特徴が物語以外のジャンルの語りにおいても見られるかどうかをテクストの分析を通して考察する。そしてシベ語において補助動詞biによる語り手と談話中の登場人物という2つの視点の使い分けが語りのジャンルを問わず一般的に見られることを示し,さらにその視点が,心理状態を表す際や,語り手が覚えていない事柄を語り手の視点をとって語ることができないという,ある一定の制約を受けていることを示す。