保安語積石山方言における存在の助動詞vi/vɑについて
佐藤 暢治
保安語積石山方言には,話し手(疑問文では聞き手)が文の表す事態を内的なものとして捉える「主観」形式と,外的なものとして捉える「客観」形式の2つの範疇がある。存在の助動詞では,この関係をvi(「主観」形式)とvɑ(「客観」形式)で表す。各範疇の性格から,自分のことを述べる場合にはviが使われ,自分以外のことを述べる場合にはvɑが使われることが多い。しかし,自分のことであっても,「仮定」,「偶然の発見」,「思い出し」など話し手自身が存在や所有の事態を十分に制御できない状況下にある場合,あるいは質問文への即答として存在や所有の事実だけを客観的に述べる場合にはvɑが使われる。同様に,自分以外のことであっても,人と人以外とでは異なる振る舞いを見せるが,話し手が存在や所有の事態を強く主張したいときにはviが使われる。その際,一般的な事実,個人的な経験による熟知,推測がviとvɑの使い分けに重要な役割を果たす。