形容詞比較級の成立条件
濱本 秀樹
形容詞には gradability のあるものとないものがあり,この区別は各形容詞の固有の意味からくるものであることはBolinger (1967) の指摘以来一致した見方であった。形容詞の意味をいったん関数とおきかえる見方を採用すると,この区別が,各形容詞の固有の関数の形から説明され得ることを示した。
まず,関数の傾きを,属性の増加と妥当度の増加が同じ方向のもの[+],逆方向のものを[-]とする。すると,いわゆる比較級にならない形容詞類 (non-gradables) は次の様に分類整理されることになる。
(1) 比較級にならない形容詞の分類表
関数の形態 | 傾 き | |
名詞派生型 | 離 散 的 | 定義不能 |
対 局 型 | 離 散 的 | 定義不能 |
極 限 型 | 垂 直 線 | + ∞ |
凸 凹 型 | 山 型 | 不 定 |
(2) Comparative Formulation
A is Xer than B ↔ μ A (ATT(A)) > μ A (ATT(B))
と表現される。 また[妥当度に差がある ↔ 傾きが定まる]ことであるから,傾きが定まれば,形容詞は比較級を取り得るが,表1のように,傾きが定義不能,不定,無限の場合には,形容詞は比較級に成り得ないことがいえる。以上の議論を比較級仮説と称することにした。
(3) Comparative Hypothesis
INC(X) is definite ↔ X can take the comparative form.
またNon-gradable が Gradable になる現象も属性の転換と関数の傾きから説明することが可能であることを示した。