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Transactional Verb のアスペクト性

高原 久美子

日本語の deictic expression の一つ,transactional verb の文法的性格を考えてみる。日本語には英語の give に相当する一般形はなく「あげる」「やる」「くださる」「くれる」の四形でパラダイムを構成している。その用法と意味は話し手と聞き手の地位の差,身内・外の関係,話し手のエンパシー等によって決まる。その意味の大きい特徴は,話し手を起点にして「与える」行為の方向が内在していることである。日本語ては,「いく」「くる」という助動詞が,動作動詞を「持っていく」「呼んでくる」のように方向づけるが,「あげてくる」とか「くれていく」は,その潜在的方向性により起こりえない。「あげる」「くれる」等は,「教えてあげる」「読んでくれる」のように助動詞としてもある動作を方角づける。話し手を中心にして動作が遠のくか,近づくかという現象が日本語動詞のアスペクトの分野にはいると考えれば,transactional verb はそれをレキシカル・アスペクトとして先天的に有している動詞だといえよう。
第二の特性は,「あげられる]や「くれられる」のような受動態をなさないことで,日本語は自動詞までも受動化することを考えると,この不規則性は異例にみえる。しかし,受動態の一般的意義を,話者の焦点にある能動者を被動者で置き換える文法作用とみなせば,能動・受動態も transactional verb も同じ deictic function を持っているといえる。「あげる」は,能動者から離れていく動作で,「くれる」は逆に被動者である話し手に「与えられる」動作である。このように,「くれる」に受動態がレキシカル・パッシブとして潜在していれば,「あげる」と「くれる」は意味的に能・受動の関係にあり,文法的受動形は必要ない。
以上,日本語の transactional verb の特性は,「いく」「くる」の助動詞や受動態にみられる動作の方向を示す日本語動詞のアスペクトの体系のなかで組織的に説明できる。

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