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「しかし」による文接続の諸相

北野 浩章

日本語の接続詞「しかし」に関するこれまでの研究は,大まかにいって「逆接」と「対比」を認めてきているが,この分類では「しかし」の本質をとらえることができない。なぜなら「逆接」と「対比」は不連続なものではないからである。そこで,「しかし」を否定的言明を導く標識と特徽づけ,その用法を分類することにより,有意義な一般化をはかった。「p しかし q」という文の連続において,(1)p から誘引される第三の命題 r を q で否定する用法,(2) p を q で補足する用法の二つに分け,さらに(1)は,その命題 r の内容によって (a) 当然の帰結を表す命題 r,(b) p の命題内容を過度に一般化する命題 r,(c) メタレベルの命題 r の三つに細分できる。
(1)の用法では,r という命題を想定することで,「逆接」と「対比」の連続性を説明することが可能になる。 (a) はこれまで「逆接」と呼ばれているものと事実上同じだが,(b) で提示した「過度の一般化」という概念はこれまで「対比」と呼ばれていたものをうまく特徴づけることができるだけでなく,それ以外の「逆接」「対比」どちらともはっきりしない例をも説明できる。さらに (c) は「命題 p を発話する」というメタレベルの命題 r を,q が否定するというものである。
(2)の用法では,「p を発話することによって言明が終了した」という含みを否定するもので,それにより p の内容を q が補足する。「否定的言明を導く標識」という「しかし」の機能は(1),(2)を通じて一貫しており,以上の説明は「しかし」の用法に統一的な視点を与えることができる。
(1)の (a), (b) はともかく,(c) と(2)は「しかし」の用法としてこれまで積極的に扱われていないようである。もちろん,この分類によってすべての「しかし」の用法を説明できるわけではなく,まだまだ残された問題も多いが,少なくともこれまでの記述の不適切,不十分な点を指摘することができる。

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