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名詞句の解釈をめぐって

西山 佑司

名詞句は指示的に透明か不透明かに応じて二通りの解釈が可能である,とされている。
(1) 田中は嫁さんをさがしている。
(1)には,1. 田中が行方不明の自分の嫁さんをさがしている[透明な読み],2. 独身の田中が嫁さんさがしをしている[不透明な読み]の二通りの意味がある,としばしば言われる。 この曖昧性は,Donnellan の言う referential use と attributive use とに対応するが,いずれも「嫁さん」が指示的であることに変わりない。実は,(1)にはもうひとつ別の意味がある。仮装行列で,田中の嫁さんがあまりにうまく変装したため,田中は自分の嫁さんを同定できず「いったいどれが自分の嬢さんだろうか」とさがしている,と読むのである。このばあい「嫁さん」は意味論的には1個の変項を含む述語であり,特定・不特定を問わず,世界の対象を指示するわけではない。この種の名詞句は,「Wh- 疑問文を内に含んだ名詞句」とみなすことができ,田中はその疑問文の答え(あるいは変項の値)をさがしているわけである。変項を含むこの種の名詞句は(2)のような潜伏疑問文や(3)(4)のような指定文に典型的にあらわれる。
(2) 私は母に,田中の嫁さんを教えた。
(3) あのひとが田中の嫁さんだ。
(4) 田中の嫁さんはあのひとだ。
ところで,非指示的な解釈といっても,
(5) あのひとは田中の嫁さんだ。
のような措定文の述語「田中の嫁さん」は属性を表わす名詞句であって,変項を含む名詞句とは意味機能が異なる。両者はかならずしも分布が重ならない。問題は(6)である。
(6) お茶くみは洋子の仕事だ。
「洋子の仕事]は変項を含む名詞句でもないし,お茶くみなるものがもつ属性を表わしているのでもない。これは token 指示ではなく,type 指示の名詞句とみなすべきである。

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