ロシア語形動詞構文におけるテンスについて
北上 光志
ロシア語形動詞構文において,過去時制で形動詞と本動詞の表わす行為が同時的である場合,能動形動詞の不完了体は現在形と過去形をパラレルに取り得る。
Ja | videl | detej, | bežavšix/ | beguščix | vo | dvore | ||||
私 | 見ていた | 子供たち | 走っていた | 走っている | で | 庭で | ||||
「私は庭で走りまわっている子供たちを見ていた。」 |
(1) 生物であるか無生物であるか,(2) 具体的なものであるか抽象的なものであるか,(3) 固有名詞であるか普通名詞であるか,(4) 単数であるか複数であるか,(5) 主格形であるか斜格形であるか,(6) 既に言及されたものであるか初めて言及されたものであるか,(7) 被修飾名詞と形動詞の語順が,「名詞+形動詞」であるか「形動詞+名詞」であるか。そして,次のような結果を得た。1) 被修飾名詞が,生物,具体的,固有名詞,単数,主格形,既に言及されたものであり,語順が「名詞+形動詞」である場合と,2) 被修飾名詞が,無生物,抽象的,普通名詞,複数,斜格形,初めて言及されたものであり,語順が,「形動詞+名詞」である場合を比較すると,1) の場合の方が 2) の場合よりも過去形の使用頻度が高い。逆に 2) の場合の方が 1) の場合よりも現在形の使用頻度が高い。
「人間の関心の度合」の観点からこのことをまとめると以下のことが言える。1) は 2) よりも人間の関心の度合が高く,逆に 2) は 1) よりもそれが低い。また形動詞は,1) の場合には過去形が用いられやすく,2) の場合には現在形が用いられやすい。 以上のことより次のように結論づける。『文全体が過去時制の場合での能動形動詞不完了体の二形の使い分けは,話者(筆者)の関心のフォーカスが被修飾名詞に来ているか来ていないかによって決定される。そして,それが来ている場合には,過去形が用いられ,そうでなければ,現在形が用いられる』