Intra- and Inter- Speaker Language variation
日比谷 潤子
言語のバリエーションには,様々なタイプがあり,それぞれ異なった性格を特っている。(Guy 1980) バリエーション研究におけるデータ収拾法,分析法は,このようなバリエーションのタイプに応じて違っており,研究に際して,まずどのタイプに属するかを見極め,それにあった方法論を選ぶことが肝要である。
本発表では,特にデータ収拾法に着目し,個人間及び個人内バリエーションの分析にはどのようなデータ収拾が必要かを検討する。データ収拾法には,(1) ランダムサンプリングに基いて選び出した話者のインタピューによるもの,と (2) 少数の話者に密着して録音資料を集めるもの,の二通りがある。(Labov 1966, Labov et al. 1980) 前者は広く浅く,後者は狭く深くデータを集めることをねらっている。これまでに各国語を対象に進められてきた研究の結果,多くの場合に,個人間・個人内双方のバリエーションが存在することが明らかになった。したがって,データ収拾に際して,上記 (1) と (2) の方法を併用し,それぞれの分析結果をつき合わせることが望ましい。
発表者は,東京都内で,(1)(2) を両方用いて録音資料を集め,ガ行鼻音の破裂音化の現象を分析した。その結果,個人内バリエーシヨンのパターンが,ほとんどの話者について一致することが判明した。つまり,(2) のデータの分析によって得られたパターンが,(1) のデータにもみられ,広い一般性を持つことがわかったのである。
上記のような一般性の高い変異パターンは,個人の言語能力の一部を成すと考えられる。