小笠原諸島における呼称の使用
関口 やよい
本論は,1987年9月4日から9月15日にかけて,小笠原諸島の父島及び,母島の小,中学校の生徒と母親の協力を得て行った,アンケート調査のうち,呼称の使用に関する部分を,小・中学生の回答に焦点をしぼって取りあげたものである。
アンケートは,父島母島の小中学校対象生徒(小3~中3)182名中,145名から回収し,回収率は79%であった。
調査の結果,次のような事がわかった。
(1) 小笠原の呼称の特徴といわれて来た,同姓の人が多い為,お互同志,名前で呼び合うという事は,男子の呼称形式の特徴を述べたものであったという事。
(2) 小笠原の呼称の使用法の特徴として,従来からいわれて来た,年上の者に対しても,名前を呼び捨てにするという事が,アンケートでみる限り,父島の男子中学生からは消えかかっている事。この事実は,つい4年前まで,小笠原の高校生の間にも上級生に対して普通に使用されていた形式である事を考えると急激な変化にみえる。
(3) 一方,父島の女子中学生の間では,上級生に対してニックネームでよぶという形が保たれていた。これは,名前を呼び捨てにするのと,ニックネームでよぶのとの機能的な違いの為と考えられる。
(4) 父島・母島の呼称形式の相違は,相手が親しい時のみあらわれる。
(5) 男女による使用の差は,相手の親疎関係,年齢の上下に左右されず保たれる。
(6) 女子の方が,相手が上級生である事に敏感に反応し,使用形式がより丁寧な形へと移行したが,男子の場合,使用形式の好みの順序に特別な変化はみられなかった。