日本語における単語アクセントと母音の無声化および母音持続時間について
栗谷川 福子
母音の無声化頻度と,アクセント型,母音の前後の子音の種類,発話速度の条件との関係,或はアクセント型と母音持続時間に関し,規則性ないし定量的関連性を検討することを目的とし,それぞれアクセントの対立する検査語グループ「吹く,好く,着く,九々,無垢」および「拭く,空く,衝く,九々,向く」を用いて母音の無声化率を,また「(フムフム!の)フム,住む,詰む,組む」および「踏む,すむ(無意味語),積む,汲む」を使用し母音持続時間を測定した。発話者は東京方言話者の成人男女各3名,各検査語は,その第二母音に後続する子音を /d/ あるいは /t/ とする二種類の文に埋込んで発話させた。発話速度は<遅いもの>と<速いもの>とし,発話形式はリスト形式,各検査語を20回以上発話録音し,音声波形の視察により各子音,母音区間を決定あるいは無声化母音を判定した。今回の結果ではアクセントの有無により無声化率に差がみられた。すなわちアクセントがある場合,無声化率は低かった。また発話速度が速くなると無声化率が増加した。これらの結果は Han の報告を支持するものである。また今回の結果では,第一母音は第二母音に比較し無声化率が高かった。この結果は Han の知見には含まれていない。従来,語頭の無声摩擦音,無声破擦音,無声破裂音の声門開大度は,語中の無声破裂音の声門開大度より大きいことが報告されているが,上記の結果はこの事と関係しているものと考えられる。尚アクセントのある第一母音,またはアクセントのない第二母音の無声化の起こり易さについては被験者により大きな相違があることが注目された。またアクセントの有無により母音持続時間に差がみられ,アクセントがある場合,母音持続時間は長かった。