丁寧表現の習得についての日米比較研究
子供の言語習得を言語使用の側面から研究する機能的アプローチとして,本研究は丁寧表現の習得に関して3~7歳のアメリカ人及び日本人の子供を対象とし比較考察するものである。子供はどのようにして丁寧表現を理解し,また使用するようになるのか,それはどのような要因によるのかという問題に有効な解答を与えるために2つの実験を行った。
第一に,子供に丁寧さの程度を調節した発話を聞かせ,その度合いに適した人物を二者沢一させる,という理解を調べた実験では日米共に年長になるにつれて丁寧表現を理解する能力が上がり,また丁寧さの程度を判断するための鍵となる言語項目(英語の "please" や日本語の「V-テ」)があることが分った。第二に,依頼の場面から構成された絵本を見せ子供から依頼を表す自発的な発話を引出す,という使用を調べた実験では,年少児には自分の要求を直接的に伝えるタイプの発話が多いのに対し,年長になると英語の場合疑問文を用いて間接的に要求を伝える表現が,日本語の場合補助動詞「ください」を付けた表現という丁寧さを強めた発話の使用頻度が高いことが分った。また相手によって丁寧表現を使い分けるかどうかという問題については,日本人の子供には先生や見知らぬ子に対して丁寧度の高い表現を用いるという使い分けの傾向があり,日米間の違いが見られた。
さらに,年少児はある表現(英語の "can",日本語の「V-テ」)を好んで用いる傾向があるのに対し,年長児は例えば "would / could" の使用等,丁寧表現のバラエティが豊富であると言える。このように子供がいろいろなタイプの表現を作り出しているという事実や 4,5 歳児が "May you~?" のような大人の文法にはない表現を用いているという事実は,丁寧表現の習得が外的要因だけによるのではなく,子供の文法発達と密接に結びついていると考えられる。