日本語/English
日本言語学会について
入会・各種手続き等
学会誌『言語研究』
研究大会について
学会の諸活動
その他関連情報

日英語比較から見た日本人の認識表現の一特性
―「含過程構造」の言語文化論的考察―

氏家 洋子

日本語の辞(主体的表現の語)の中に話者の一定の時間にわたる心的過程を一語で表したものが認められる。日本語だけを対象とした考察からその内的構造をかつて含過程構造と名付けた。これを英語に置換えると節を要し,準主述語を使って表される程の心的過程を含過程構造をもつ語が表しているとなる。
例 1. やっぱりあの人の絵はすばらしかった。
E-1. As I expected, his painting was impressive.
例 2. [セルフサービスですから],お茶自由にお飲み下さい。
E-2. Talking about tea, please help yourself to it [since we are a self-service restaurant].
例 3. 違うです。
E-3. I should say that it is not correct.
以上の例から日本語表現の内含性,英語表現の展示性という対比が指摘できる。日本語でも節を用いた表現(「思った通り」「お茶について言えば」等)が可能であるのに一般に含過程構造をもつ語の方を選択するのは何故か。内含的表現を可能とし,展示的表現の明示された部分り代わりをなすものがありはしないか。それは駲成単一・稲作協働社会に因を発する状況共有性と見られる。
ところで,二つのラングを現時点で比較するだけで無媒介的に内含性という特殊性を指摘するだけでよいのか。ラングとして固定化されるものは実は人類が普遍的にもつランガージュの結果として在る。含過程構造の語の通時的考察から所与のラングを活用して同構造を作り出して来たことがわかる。その際所与のラングの制約も受けるはずだが,英語にも微弱ながら同構造の形成が見られる。Bemstein, B. が formal language と区別する public language は状況共有性を特徴とする。後者は言葉の始源的姿を保持していると言えるが,そこから前者が他者との交信の表現として状況を言語化する形で分化発達したと見られる。言語共同体で最も必要とされる形が定着するわけで,日本では含過程構造という方向をとった。ランガージュの普遍性を媒介とした,ラングの現時点での特殊性という位置付けが必要である。

プリンタ用画面

このページの先頭へ