INFL とアマルガム
Chomsky (1986) の "Barriers" 体系の中では,時制節の動詞呼応が,non-flected V の VP 主要部位から最も近いINFL (I) 主要部への移動を経て I 中に含まれる φ一素性とのアマルガム化として把えられている。
この主要部間に認められる V-to-I 移動は,英語の V Raising をはるかに超える文法現象であり,アマルガムを前提として I-to-COMP や 主語移動等が引き起こされる。語彙的に制約を受けるアマルガム化は個別言語に特有のパラメータを有し,例えば英語の be/have を特つ時制文の性質はフランス語の不定詞節に類似性を現わし (Pollock(1987)),このアマルガム操作が欠ける場合にはその代替として主語の VP 付加や使役構造での編入 (incorporation) が発現する。(Belletti (1988) 他。)
V-to-I アマルガムが作動しない時に V を VP にセグメント付加することによってこの領域を通過し,その後[I V + I] を構成するサイクル性も見出されていて [VP V [VP t… ]] が許容される。このようにアマルガムに関与するという条件の下で,通常は禁止される付加変形が許容される系が他にも認められる。
IP への wh- 句タイプのオペレータ付加は一般に禁止されるが,wh…[IP t [IP のトレースそのもののアマルガム化によって寄生ギャップ現象が説明される方向が Frampton (1988) によって提唱されている。wh- 連鎖理論の枠組みの中で,これまでの連鎖形成の概念の代りに wh- オペレータを他の wh- オペレータとアマルガム化する IP 付加を許容することによって,「付加への主要部統率条件」 (HGCA) を免除された寄生ギャップ鎖の「ねじれ」に迫るものと言える。これまでの二つの INFL を中軸とするアマルガム効果は,最大投射への語彙カテゴリーの付加を保証し,抗(反)c- 統率による連鎖のリンクを保証するものであるが,これらを統一する原理は何であろうか。本発表は,I 体系の欠知性が γ/δ complex の形成につながる可能性を示唆する。