日本語とシンハラ語における呼称の比較対照
呼称に関して,英語では,Brown and Gilman (1960),Brown and Ford (1964),鈴木孝夫 (1973) などの研究がよく知られているが,西洋の言語学では,親族名称を扱った研究があまり多くない。筆者は,日本語とシンハラ語の呼称について研究を行ない,非常に対照的な結果を得た。
まず,鈴木孝夫が示している日本の親族間の自称詞と対称詞の使い分けの原則を土台にして,日本語とシンハラ語の親族呼称を比較してみる。両言語において,人称代名詞と名前の使い方は,上下関係によって決まっている。日本語と違って,シンハラ語では,目上の人にだけではなく,目下の人に対しても親族名称で呼ぶことができる。ただし,親族名称が自称詞としては使えない。日本語の場合,家庭内のコミュニケーションには力関係 (power) が優勢になっている。シンハラ語の場合,力関係だけではなく,連帯意識 (solidarity) にも左右される。
家族以外の人間関係において,シンハラ語では,親族名称の直樹的用法 (fictive use of kinship terms) は,日本語よりも広く見られる。両言語の場合,家族以外の人間関係の呼称として代名詞・名前・地位名称・職業名・敬称・呼びすてなども検討する。日本語とシンハラ語では,言語行動が起きている社会的状況に対して敏感にならなければならないというわけで,両言語については,エドワード・ホール (Edward T. Hall) の言葉を借りて言えば,いずれもハイ・コンテクスト言語である。
日本語の呼称は内と外の区別をはっきりさせるようなしくみをもっている。外部の人にも声をかけやすい親しみやすいような構造はシンハラ語の呼称の特徴である。シンハラ語の呼称には,親密表現が比較的多いといりことはそれの証拠である。