ロシア語命令法における体の用法
―TEMA, PEMA の観点からみた分類―
福安 佳子
本発表では,ロシア語命令法における体の選択を,情報的観点から分析した。
まず,命令法が成立するための条件を,(1) 命令者,(2) 被命令者,(3) 命令情報とし,これらと,TEMA, PEMA の概念を用い,次のような仮説をたてる。
『命令情報が,被命令者にとって TEMA になる状況では不完了体が,PEMA になる状況では完了体が用いられる。』
次に,実際の用例を分析し,この仮説の妥当性を考察した。
さらに,なぜこのような仮説が成り立つかということを,《全体として把握できるような動作を示す完了体は,このような指示のない不完了体と対立している。(О. П. Рассудова)》であらわされる,完了体,不完了体の一般的意味によって説明を試みた。すなわち,命令情報が,被命令者にとって全くの新情報である場合,命令者は,被命令者が即座に全体的把握ができるかたちで命令情報を提示する必要があるゆえに,完了体が用いられ,また,既に被命令者が情報の一部を有している状況では,命令者は全体として把握できる動作を提示する必要はないゆえに,不完了体が用いられるのである。
さらにすすんで,なぜ,命令者は,被命令者の『情報状況』をおしはかって,完了体,不完了体を決定する必要があるのかを,体の『社会的機能』にふれ,下のような図を用いて説明した。