Scrambling Phenomena in NPs in Japanese
山崎 和夫
日本語の「かきまぜ」規則を Adjoinment とする Saito ('85) は NP 内部の語順入替の違い (1) を,(2) を仮定することで説明できるとした。
(1) a. {野蛮人の都市の/*都市の野蛮人の}破壊
b. {政府軍の都市からの/都市からの政府軍の}撤退
(2) a. 属格 NP は抽象格を付与されない。
b. PP の t は格付与される必要はない。
本発表では Saito の路線を踏まえて,他の類似の現象からθ-役割を考慮に入れる事により,幅広い説明ができる事を示す。まず Saito では NP の t は残れない事になるが,これは強すぎる制約で (3c) は (4) の構造を持つと考えられ,NP の t が残っているが正しい文である。
(3) a. 図書館の学生への本の貸出。
b. *本の図書館の貸出
c. 本の学生への貸出
(4) [NP PRO [N' 本の [N' 学生への t [N 貸出]]]]
又,他に,下線部を入れ替えると不自然になる様な類似の現象が見られる。
(5) a. 次郎が 数学が好きだ。
b. 部長が花子に 東京に行かせた。
c. 雨の中を 自転車を押して行った。
d. 太郎が 花子φ 殴ったの?
この事は日本語で格が default である時は英語と同様,位置が GF を与えていると考えられる。従って,NP 内部に於いても S と同様,次の様なθ-役割付与を提案する。
(6) | [X'' | NP | [X' | NP | [X 破壊(スル)] |
が | を/抽象格 | [+V] | |||
の(θ-S)の(θ-D) | [+N (+V→-V)] | ||||
条件: θ-役割付与は格が default の時にのみ働く。 |
「太郎の 青い縞のシャツ」「太郎の レンブラントの マリアの絵」において,前者は入替え可であるが,後者では不可であるが,後者は派生名詞構文を持つと考えられる。