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ヨーロッパ諸語における否定の表現

下宮 忠雄

Expression de la négation dans des langues européennes.
§1. 否定辞として最も広く用いられるものは印欧祖語 *n̥- および *ne に由来するものである。前者は後者の母音度ゼロの形成で,接頭辞である。
*n̥- の例: 英 unknown=ド unbekannt=ゴート unkunþs=ラ ignōbilis (in+gnōbilis)=ギ ágnōtos=サ ájñāta-.
*ne はラテン語 nesciō (私は知らない)=リトアニア語 nežinaũ においては動詞に接頭されている。フ je ne sais pas,ロシア語 ne znaju においては独立語として立っている。
ne は否定語としては表現力が弱いため,フランス語のように pas で補強されたり,ne+*oinom(一つもない)として補強されて,ラテン語 nōn scribō (私は書かない)のように用いられる。イタリア語も同様である。英語 not,ドイツ語 nicht,デンマーク語 ikke (*eint-gi),現代ギリシア語 den(発音ðen,< oudén)も「一つも…ない」の表現に由来する。
§2. ne 以外の否定語は,ヨーロッパではアルメニア語 čʽ,バスク語 ez,ギ dén,ókhi,ノルド諸語(デ ekki)などに見られる。 フィンランド語は否定動詞(人称変化 en,et,ei…)を用いる。
§3. 「私は決して行かない」のような場合,ロマンス諸語,バルト語,スラヴ諸語,アルメニア語は二重否定を用いる。
§4. 否定命令(禁止)の *mē に由来する否定語はサンスクリット語,ギリシア語,アルメニア語,アルバニア語に見られる。
§5. 動詞否定詰の位置:ド ich weiss nicht の ような後置はゲルマン語のみであり,他は現ギ dén kséro (私は知らない)のように前置か,フ je ne sais pas のように前後に来る。(コメント多謝: 森田貞雄・町田 健・林 迪義・浮田三郎の諸氏に)

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