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日本語における多義的な名詞句修飾構造の意味解釈

山中 信彦

日本語においては「修飾語句 名詞句 の 名詞句」という構造(以下これを「AB の C」と表わす)を持つ表現は「修飾語句」が最初の「名詞句」にかかるのか「名詞句 の 名詞句」全体にかかるのか,という点に関して潜在的に多義的である。しかし実際には,我々は殆んどの場合常識や文脈の助けをかりてそれらを一義的に解釈しているのである。
本発表では文脈による影響は捨象し,「AB の C」だけを切り離してみた時に我々がどのような方略を用いて意味解釈を行なっているかを小説等の用例を分析することによって明らかにしようと試みた。まず,我々は言語情報の知覚とその解析を並行して行なっているという前提のもとに次の様な仮説を立てた。
(I) 「AB]が自然な連語と感じられるならばその時点で「A」と「B」が我々の頭の中で結びつき,原則として“[AB]の C”と解釈される(「ホテルの玄関の扉」)。
(II) 「AB」が意味をなさない場合には「A」と「B」は結びつかない(「潜在的な国内の不安])。又,「AB」が多少なりとも不自然な連語と感じられる場合には「A」と「B」は強く結びつかないで宙ぶらりんの状態におかれる(「年賀状の蛇の絵」)。
 これらの場合,最終的には原則として“A[B の C]”と解釈される。
但し,(I) や (II) に該当する例の他に,「AB」が全く自然な連語であるにも拘らず“A[B の C]”と解釈される例がある。それらは,いったん生じた「AB」という結合が次の様な原因によって破棄されたためと考えられる。
「B の C」が固定的な表現となっている場合(「強い不信の念」)。「B」の個別性又は具体性が「B の C」という連語において抑圧されている場合(「大きな木の机」)。
「B の C」が一般に「A」という性質を内在的に持っている場合(「短い夏の夜」)。

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