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古プロヴァンス語における動詞の単純過去および半過去のテキスト内での分布について

町田 健

現代フランス語の récit 中では,物語の時間を進める事象には単純過去が,進めない事象には半過去が使用される。つまり perfective-imperfective というアスペクトの対立が事象の区別の指標になっている。一方,古プロヴァンス語では,いずれの事象にも現在が多用され,かつ時間を進めない事象に単純過去が使用される例も少なからずある。その結果,半過去の出現する頻度が抑えられている。
それでは,上の二つの事象の区別の主要な指標となっているのは何かというと,それは状態―非状態という動詞のクラスの区別である。状態動詞は,それが意味する事象の起点及び終点を明示しないという理由から,時間を進めない事象に使用され,非状態動詞は,起点と終点の少なくともいずれか一方を明示し得ることから,時間を進める事象に用いられることになる。
この動詞のクラスの区別だけが二種の事象の区別に関与しているのだとすれば,用いられる時制は,アスペクト的には中立である現在だけでよいことになり,実際,現在の頻度は高いのであるが,韻律上の制限などの理由の外にも,次のような理由で他の時制が用いられている。
時間を進める事象に状態動詞が用いられる場合には,これに何らかの時間的な枠を与える必要があるので,perfective なアスペクトをもつ単純過去が使用される。この際,これ以外に,時間を進めることを示す統語的環境が要求される。しかし,時間を進めない事象に非状態動詞が用いられる場合には,そのような枠を与える必要がないので,現在のままでよい。また,状態動詞は,単純過去によっても,結局は時間的枠を明確に与えることが困難である訳だから,状態動詞の単純過去は時間を進めない事象にも使用されうる。

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