タガログ語の使役形態素 pa- の意味構造
石山 伸朗
タガログ語の使役はもとになる動詞に pa- を前接した使役動詞を用いて表されるが,その使役現象の説明として,causer を主語,抽象的な動詞 CAUSE を本動詞とする主文に非使投文が埋め込まれ,その補文内の主語 (cause) や直接目的語が主文の文法関係へと昇格して使役文が派生されるとする,Clause union (Comrie (1975, 1976)) では,使役動詞と文の主語の格関係の一致による affix の様子を十分に説明できない。
そこでタガログ語の使役では Clause union はとらず,他動詞,自動詞からの使役に用いられる pa- に対してそれぞれ,pa1- = GIVE + AFFECT,pa2- = AFFECT を仮定することを提案する(pa2- は pa1- の一部をなす)。これによって affix の様子が説明されるだけでなく,よく知られている,意図された行為の実現の非合意性も示せる。
さらに pa- は,使役とはいえない自動詞・他動詞・副詞・名詞などの派生にも用いられるが,使役の pa- に GIVE 的な意味を仮定することで,使役,非使役の pa- を統合的に扱うことが可能になる。