日本語に於ける擬似他動詞 (deceptive intransitive) と格標識
欲しい,できる,わかる,見-たいなどの一群の動詞は,一般に目標格標示の二重(がとを)に存在する他動詞か,或は能格型の構造を持つものとして従来分析されて来た。尊敬語化のパターンや自分の先行詞の決まり方を考えると,~に~がわかるのにの主語性が高く,数量詞の遊離や関係詞節中の格表示パターンの変化,下位範疇のあり方などを見ると,同じにの主語性は低く,むしろがを統語主語としたい状況になる。
同じ意味を表わすのに,全く異なる格標示型が存在するのは何故か,ということを説明するためには,恣意的なタイプの区別を提示するだけでは不充分である。特に,~に~が型のみを要求する他動詞的述語が存在しないことから,~に~が型を確立された構文として見ることには無理がある。
本分析では「主語」,「目的語」という文法関係を意味タイプによりとらえ直し,それらが統語構造にどのように組み込まれるのかという関係を示すのが格助詞の機能である,ということを,GPSG の枠組を用い下位範疇(直接支配)規則と意味構造の明示化によって説明する。例えば状況・可能性の意味のできる(例,明日ならパーティができる)は次のように語彙的に統語・意味構造が規定される。
<dekiru, {<Bar, 0>, <N, _>, <V, +>, <PRD, _>, <SUBCAT, 1>}, λ ℙ0 ∃ℙ1 [can' (do' 'ℙ0) (ℙ1))],......>
ℙ1 は随意的で,PP として現れた場合には経験者が誰であるか(誰にできるか)を示し,現れない時は単に何かをすることが可能であるという意味(即ち誰がを言う必要がない)。
この方法だと,がを統一的に統語主語として扱うと同時に意味主語の存在をも示すことができる。問題のには意味主語であるために argument の性質を持つが,統語的には後置詞句として機能する,と説明される。