日本語の指示表現
吉本 啓
日本語のコソアを中心とする指示表現について,記憶・知識モデルの観点を取り入れつつ,用法を分析する。
はじめに結束性 (cohesion) を分類し,その中にコソアの「指示」用法を位置づける。
「指示」 (referenee) としてのコソアの用法にはダイクシスとアナフォラとがある。
ダイクシス用法を次のように規定する。話し手と聞き手が対立する時,<話し手―聞き手>領域の外の事物はアで指示する。<話し手一聞き乎>領域の内にあって<話し手>領域の内にある事物はコで指示し,<話し手>領域の外にある事物はソで指示する。話し手と聞き手とが対立しない時は,<話し手―聞き手>領域(<話し手>領域と同じ)の外にある事物はアで指示する。<話し手―聞き手>領域の内にある事物はコで指示する。
コソアのアナフォラ用法は次のとおりである。無色中立のソを介して,アとソのちがいを過去の出来事記憶のうち外界に聞するものの知識の階層的モデルによって示す。またコがソとちがって,指示対象が具体的・確定的でなければならないこと、対象が話し手・聞き手の心理の前景に押し出,されることをマークすることを述べる。
以上のアナフォラ用法を Schank 1980 の記憶モデルを用いてまとめる。
アは過去の出来事記憶中の外界に関する知識のうち,話し手および聞き手に共通と判断されるものを参照して同定すべきことを示す。
コは現在の出来事記憶中の非事実でない事項を参照して同定すべきことを示す。そして,指示対象をテクスト中で重要なものとしてマークする。または,直後の発話・思考の内容を参照して同定すべきことを示す。
ソは現在の出来事記憶を参照して同定すべきことを示す。