非能動者主語構文と "Amphidiathesis"
―受動・再帰・使役・完了の統語位相論
田原 薫
位相論的統語観 (topological view of syntax) では,言語表現を背後から支える認識の構造を(少なくとも)3次元のものと見なし、文法機能をそれらの次元の交わりによって定義されるものと考える。
一つの基本的表現単位 "clause" は,おのおの2値的な3つの次元の交わりによってできる8個の交点 (A, P, O, C, V, R, S, Q) をもつ。これらがそれぞれ文法機能を表わす。これらの位置に辞項が配当され,統意構造ができる。この段階から転送(機能素性を変更する演算)を経て統語構造が形成され,そこに走査規則が働いて文が読み出される。
他動詞文の能動態と受動態は共通の統意構造から派生される。その統意構造は,能動者がまだ動詞の項になっていない点て受動態に近い。これを Amphidiathesis (両動態)と呼ぶ。次の(a)図はその一例を示す。(叱責という事態がサムを受動者,トムを能動者として起ったことを意味する。)C の -ed と A の -er はそれぞれ O 成分,P 成分の動詞に対する資格を表わす。
この両動態の統意構造は,再帰受動・使役・完了(これも視点の時点では主語は能動者でない)の各構文をも同様に基礎づけている。たとえば図式(b)によってイタリア語の再帰受動文 le mele si mangiano. およびその完了形態 (… si sono mangiate.) などが説明される。すなわち,呼応の中枢 @ と @' の二者択一,er と *ed の交互点滅が絡みあって、現実の諸形態が生成される。