There 構文における名詞句の定性
福田 久美子
存在的 there 構文も提示的 there 構文も談話内へ新情報を導入するという機能をもつが,存在的 there 構文では定名詞句表現が許されず(但し,リスト文は別),他方,提示的 there 構文ではそれが許される。なぜ,提示的 there 構文にのみ定名詞句の出現が許されるのか。これまで,この点に関する妥当な説明はなかったと思われる。結論的にいえば,提示的 there 構文では動詞+名詞句全体が新情報を担っている。すなわち,動詞と名詞句の組み合わせが不定であるので,名詞句自体は定であっても差しつかえない。これに対し,存在的 there 構文では動詞が be あるいは exist のような存在を表わすものに定まっており,新情報を担うのは名詞句自体である。そのため名詞句に関する制約がきつくなる。
さらに,存在的 there 構文の方は談話内へ導入するものが個体であり,Jespersen のいう junction 的であるのに対し,提示的 there 構文の方は動詞+名詞句という状況あるいは光景といったものであり nexus 的である。図で表わすなら,存在的 there 構文の方は談話のわく組の中の点であり,提示的 there 構文の方はわく組の中へ外から入ってくるといった線で表わされると思われる。