〔軟子音〕~〔j〕~〔i〕の交替現象について
田端 敏幸
- ロシア語では,〔軟子音〕~〔j〕~〔i〕の音交替が組織的におこなわれる場合かおる。この研究発表のねらいは,このような音韻現象を統一的に説明するモデルを提案することである。
- 軟子音は SPE 流の音韻論では子音セグメントに〔+high, -back〕の素性がプラスされたものであると考えられていたが,本研究ではこれを次のような表示でとらえることにしたい。
- データとして用いるのは動詞の命令法,不定法の形態である。また母音中和のプロセスについても少しばかり言及する予定である。
命令法の語形成は,(i) 語幹が子音で終るか母音で終るか,(ii) 語幹が強勢をもつか否か,(iii) 語幹が子音で終る場合それは一個か二個か,というような要因によって左右される。また,不定法の場合にも強勢の位置が〔軟子音〕~〔i〕(具体的には {t'} ~ {t' i} の交替)を決定するものと考えられる。 - 以下に命令法の形態分析を示す。なお V は強勢の位置を,μ は形態素を,それぞれ,表す。
- 不定法の末尾における形態の交替現象は,結果的に,次のような表示によって説明される。
- ロシア語の母音中和のうちで,軟子音の直後の〔-high, -stress〕母音は /i/ に中和することが知られている。これは次のようなプロセスとして分析される。
文献
- Bhat (1978)
- Chomsky & Halle (SPE) (1968)
- Clements & Keyser (1983)
- Findore & Scatton (1978)
- Halle (1959, 1973)
- Hyman (1975)
- Jakobson (1948)
- Lightner (1967, 1974)
- Sommerstein (1977)
- Trager (1953)