Quantification and Negation
北元 美沙子
I 目 標
論理形式 (LF) ―意味解釈にかかる制約を数量詞と否定との相対的作用域の関係の中でみつけようとするのが主旨であります。
II 問題提起
次の文で (1b) と (2e) には二つの解釈が可能ですが,残りは一つの解釈しか可能ではありません。なぜそのような違いがおこるのでしょう。
(1) | a. | Tom did not invite | { | some fathers. |
| b. | | many fathers. |
| c. | | every father. |
(2) | a. | Some fathers | } | were not invited by Tom. |
| b. | Many fathers |
| c. | Every father was not invited by Tom. |
もしも,May (1977) の LF を導く Quantifier Rule (QR) を上の文に適用すると多義性はとらえられても,不可能な LF までもうみ出してしまうことになります。なぜなら,
some は必ず
not より広い作用域をもつのに,
many や
every はその現われる統語的な位置と,語彙的な特性により,助動詞の位置の
not との相対的な作用域を決定します。
III 解決策
Barwise-Cooper (1981) の数量詞に関する含意関係にもとづく一般的特性を利用すれば,非適格な LF を排除できるのではないだろうか。彼らの考えでは,項 (argument) に数量詞は増加又は減少の含意関係をもつか,あるいは,全く含意関係は成立しないということであった。前述の (1) (2) の文では,数量詞が目的語の位置の項あるいは主語の位置の項の値を決めるのですが,数量詞自身の語彙的特性と否定辞との関係により,それができなくなる場合が非適格な LF になるものと思えます。数量詞のもつ語彙的特性は表層構造での統語的制約としても現われ,さらに表層構造における数量詞の統語的役割が LF での制約として働いていると思われます。