日本語の多義的な名詞並列構造の解析
―関連性理論の観点から―
山中 信彦(埼玉大)
日本語の,並列された名詞の前や後に修飾語句や被修飾語句が隣接している構造(「私の兄と姉の学校」など)は,統語的に多義的であり,潜在的には複数の解析が可能である.本発表ではそのような構造を人間が常識や文脈を手がかりにしてどのようにして一義的に解析しているのかに関する認知的なモデルを提案した.
解析の一般原則としては大きく,(ア) 意味的対応要素に関する原則: ‘[都バスの後部]と[都電の前部]’ (イ) 「束ね」に関する原則:‘[美と信仰]の間’ (ウ) 語結合に関する原則:‘年齢や[歳月のながれ]’,の3種類を考えた.これらの原則のいくつかは関連性理論によって支持されると考えられる.「都バスの後部と都電の前部」について言えば,(ア) の原則だけを用いて上に示した解析が得られ,かつ,それで十分意味をなすことが分かるので,我々はそれ以外の解析の可能性を考えないですます,ということである.