日本語における状態述語の経験者
外崎 淑子(日本学術振興会特別研究員/神田外語大大学院)
日本語において,経験者と対象の2項を取りうる状態述語は,(i) 2項を持ち経験者「に」格を取る可能動詞,(ii) 対象のみを取り,「にとって」で表される経験者を任意に取る難易文・判断の形容(動)詞,(iii) 2項を必ず取り,経験者に「に/にとって」を許さない願望・能力・好き嫌い・感情の形容(動)詞,の3つに分類される.(i)(iii) の述語は主語尊敬語化が可能だが,(ii) の述語はそれができない.これらすべての述語は経験者の方が対象よりも構造上高い位置にあることが束縛関係のデータから分かる.(i)(iii) の述語の経験者は IP 指定部に基底生成するが,(ii) の述語の経験者は,PP として IP 指定部以外の位置に基底生成すると考えられる.(iii) の「好きだ」や「羨ましい」といった形容(動)詞の他動性は,その種の形容(動)詞が語内に動詞を含む構造であり,その動詞の [-stative] の性質が述語全体の stativity- に影響を及ぼしていると仮定することによって説明が可能となる.