文とテクストにおける「常体」と「敬体」の並存を条件づけるもの
川村 三喜男(東洋大)
敬体と常体が併用されている単一のテクストにおける両者の分布はテクストの構造に依存していることを明らかにし,その理由を説明する.すなわち,「起承転結」の構造をもつテクストにおいては,起,結として機能する文と承,転の各部分の最初の文が敬体になり,また,非コメント文とコメント文が連結されたテクストにおいては非コメント文が常体,コメント文が敬体で現れる傾向がある.これは常体文がテクスト内の先行する文の表現するものに address し,monologic なのに対して敬体文がテクストの読み手に直接 address し,dialogic であるいう性質の違いから説明される.前者ではある部分から次の部分にテクストを展開させること,後者ではコメントを述べることがいずれも〈書き手指標性〉(池上 1999)のある行為で,これを遂行するには読み手の協力を要請する,即ち Reader Responsibility (Hinds 1987) に訴えることを書き手が望む場合に敬体が用いられる.