「ト思う」述語文の情報構造について
小野 正樹(筑波大)
「ト思う」述語文については,不確かさを表す用法と,主観提示の用法があるとされてきた(森山 1992)が,本発表では不確かさを表す用法について,その文の成立条件として,思考時点,発話時点,そして補文内容が指向する時点を設けて,分類を行った.この方法を用いることで,「ト思う」のル形以外にも,「ト思っている」「ト思った」のアスペクト・テンス形式,「ト思わなかった」の否定形式,また,「彼は彼女がピアノを弾いていると思っている」のような第3者主体の文についても,情報構造的観点から違いが説明可能となり,思考時と発話時が一致する一人称主体のル形の文のみが,補文内容に関して不確かさを表明するモーダルな要素をもつ機能を持つが,それ以外の形式では,思考時と発話時にずれがあるために,不確かさを表すのではなく,思考行為を行ったことを表明する文であることを明らかにした.