中央太平洋諸語における能・対格構造とその歴史的変化
菊澤 律子(東京外国語大アジア・アフリカ言語文化研究所)
中央太平洋諸語に属するポリネシア諸語には能格・対格両方の言語があり,その格構造の歴史的変化は長く議論の対象となってきた.本研究では,ポリネシア祖語の一階層上の中央太平洋祖語を再建することにより,能格から対格,対格から能格変化のいずれが妥当であるのかを解明することを目的とし,具体的には,対格言語であるフィジー語と能格言語であるトンガ語を比較し,祖語における格構造を比較・再建した.これまでの比較統語論的研究が機能的類型論の成果に基づいて行われてきたのに対し,本研究では Lexicase 理論を適用することで異なる言語間の統語構造の対応関係を判定することを可能にし,伝統的な比較言語学の手法を適用して比較をすすめた.その結果,中央太平洋祖語は能格構造をもつ言語として再建され,ポリネシア祖語は格構造をそのまま保って能格,一方,フィジー語は分岐後に対格構造へと変化したことが明らかになった.