ハイダ語スキドゲイト方言の手段接頭辞について
堀 博文(静岡大)
ハイダ語スキドゲイト方言(北アメリカ北西部で話される)には,動詞に付加されて,動作で用いられる道具(例: 「手で」など)や動作の様式(例: 「押すことによって」など)を表わす手段接頭辞と称される要素がある.道具を表わす手段接頭辞には身体部位に関わるものが多く,一部の手段接頭辞は,1項動詞を2項動詞にするというように,動詞の結合価を増加させる.形式的には,意味的に対応する自立語と類似するものがあり,自立名詞と類似するもの(多くは身体部位名称)は名詞抱合との関連を示唆するものであり,また自立動詞と類似するものは動詞の合成と関連付けることができる.名詞抱合と比べてみると,身体部位に関わる名詞が比較的抱合されやすいという点が身体部位を表わす手段接頭辞の多いことと類似していると考えられるが,動詞の結合価に関していえば,名詞抱合は結合価を減少させるのに対し,手段接頭辞は増加させるというように両者は異なる.