アイヌ語静内方言の疑問の副助詞
奥田 統己(札幌学院大)
本発表では,アイヌ語静内方言における,文の構成要素に後続してその要素が疑問または疑いの焦点であることを表示する4つの副助詞について報告する.こうした使い分けはアイヌ語について従来報告されていない.
enta はいわゆる yes/no 疑問のなかでのみ用いられ,直前の要素が疑問の焦点であることを表す.文末の複合的な表現のなかで用いられて文全体の疑問を強調する場合もある.
ta は疑問詞を用いる疑問文のなかにのみ現れる.直前の疑問詞,または疑問詞を内部に含む直前の要素が,疑問の焦点であることを表示する.同じく文末の複合的な表現のなかで,文全体の疑問を明示することもある.
he と hetap はいずれも,話し手による疑いを表し,聞き手に対する問いかけを伴わない.直前の要素が疑いの焦点であることを表すか,文全体に対する疑いを明示する.話し手がその疑いの解決を求めているときには he が,求めていないときには hetap が選ばれる.