チェコ語男性名詞のアクセント法
佐藤 規祥(名古屋大)
チェコ語は,アクセントが語頭音節に完全に固定しており,またスラヴ祖語に想定され得る音調の区別が失われ,代わりに母音の音量が区別されている.スラヴ祖語のアクセントは,主にクロアチア語チャ方言とロシア語のそれに基づいて再建されるが,従来,チェコ語は,古いアクセント法を保持していないと考えられてきた.本発表では,チェコ語が,一部の方言に限らず標準語においても,古形を保持しており,祖語のアクセント法を精密に再建するためには,無視できない役割を果たし得ることを指摘した.チャ方言の男性名詞には,印欧祖語の語根アクセント型に遡及するアクセント法が体系的に保持されている.このアクセント法は,チェコ語の南西ボヘミア方言とシレジア方言においても保持されたことが判明した.また,その標準語においても単数前置格の語尾に -e を有する名詞が,そのアクセント法を示すものであると推定される.