キナウル語の母音体系について
高橋 慶治(京都大大学院)
本発表では,インド ヒマーチャル・プラデシュ州キナウル地区で話されているキナウル語の母音体系を明らかにした.
キナウル語はチベット・ビルマ系の言語であり,19世紀から関心を持たれてきたが,実際の調査データは多くはなく,誤りが多かった.本発表では,キナウル語の母音体系について,これまでのデータの不備を指摘し,より正確な母音体系を示すことを目指す.
これまでのデータにおいては,/a, i, u, e, o/ の5母音は比較的はっきりしていたが, /ə/ や /ü/ などで表される母音の位置づけが明確ではなかった.本発表では,発表者の現地調査によるデータをもとに,これらの母音が非]円唇非前舌高母音であることを示し,キナウル語の母音体系を /i, ɨ, u, e, o, a/ であるとした.また,短母音のそれぞれに対応する6つの長母音 /i:, ɨ:, u:, e:, o:, a:/ が音素として存在することを示した.