人間関係管理からみた優先応答体系
椙本 総子(大阪外国語大大学院)
会話の局所支配機構に優先応答体系がある.優先応対は心理概念ではなく,言語構造上の概念で,優先的応答は無標の構造になるのに対し,非優先的な応答は複雑な有標の構造をとると規定されている.
本研究では,実際にはこの体系に違反する現象(例: 依頼の承諾が優先的応答ではなく,非優先的応答の有標の形式で現れる場合や,不同意表明が無標の場合がある)が観察されることから,この原因はこの体系に人間関係の管理に関する視点(誰にとって好ましいのか)が欠けているからだと考えた.その際に対他者向けの配慮だけでなく,対自已に対する考慮の二つの視点が必要であることを主張し,この視点をそれぞれ対他者ベース,対自己ベースと名付けた.このベースの概念を用いることで優先応答体系とそれに違反する現象も統一的に説明できることを証明した.証明は,言語的特徴及びパラ言語的特徴に基づいて行った.