「コレハ私ノダ.」における「ノ」の性質
―北陸方言と共通語の対照方言学的考察―
藤田 尚子(金大セミナー)
本研究は,共通語の「コレハ私ノダ」における「ノ」の性質を,主に生成文法の枠組みに従いつつ,対照方言学的手法を用いて明らかにすることを目的としている.具体的には奥津敬一郎『生成日本文法論』(1974, 大修館書店)の記述を土台として,共通語における「ノ」の問題を共通語の「ノ」に「ガ」が対応する北陸方言と対照させることにより,これまで明らかにできなかった問題を解明する.
奥津は,この場合の「ノ」の生成は「コレハ私ノノダ.」(連体助詞の「ノ」+準体助詞「ノ」)から前の「ノ」(連体助詞の「ノ」)が消去されたものであるとしているが,その根拠の妥当性は弱いと言わざるをえない.そこで北陸方言と対照させることによって,「ノ」は「ノノ」のどちらか一方の「ノ」の消去ではなく,二つの「ノ」の融合によって派生したものであると結論付けられることを指摘する.