「自分」の解釈―幼児と大人の違い
吉村 紀子(静岡県立大)
本発表では,3才~4才の幼児と大人を対象にしておこなった実験結果に基づき,「自分」の解釈,特に長距離束縛 (LDB) の理解に関する子供と大人の文法の相違点について考察した.考察の焦点は,最近の研究で提案されている logophoricity という談話概念が理解に必要であれば,大人が幼児よりも LDB の優先度が高いであろうという仮説を検証することにあった.
結果として,「自分」が補文の目的語の位置にある文では,主文の主語を先行詞とする解釈が大人 83.33%,幼児 65.38% であったのに対して,それを補文の主語の前に移動した文では,大人が 96.67% 主文の主語を,幼児が 67.95% 補文の主語を優先的に先行詞とする解釈を示した.以上から,幼児は LDB を大体理解できるが,scrambling が logophoricity よりも習得が早いことがわかった.また本研究では,束縛理論における precedence の必要性を疑問視するような結果となった.